交通事故でアゴ骨折

Daisukeh 2010/07/23 15:19 作成

 この一連の記録は、下総精神医療センターのデイケアプログラムに参加した後、自宅までの帰路(負荷運動のため15Kmの迂回ルート)のサイクリング途中で、見通しの悪いクランクで追い越してきた自動車の幅寄せに遭遇し、それを回避しようとして道路にはみ出て生えていた杉木に自転車がオフセット衝突、負傷した単独事故の回想である。事故発生時点から救急搬送されるまでの記憶に曖昧な部分があり、よく思い出せないことに留意したい。

病室から見えた美しい雲の光景

2010/06/25

15:00

 下総精神医療センターのデイケアプログラム終了(ちなみにこの日は木曜日だったので喫茶活動があった。)

15:05

 同センターの駐輪場より、通常の帰宅ルート(迂回短路15Kmコース)に出発する。天気良好、体調十分だが精神的に何かモヤモヤしたものあり。

15:10

 野田十字路から市緑土木を経由して水砂十字路へ通じる道に西から合流、北へ走る。信号を過ぎると高いガス塔があるが、ここはゆるい谷にカーブした道になっているため、坂の出口でのスピードは25Km/h程度。そこから果樹園に続く高い植え込みと木が生えている見通しの悪いクランクにて、後ろから接近する自動車に幅寄せされて転倒する。自動車の接近する記憶と断片的な映像記憶はあるが、不鮮明で離散的で確度は高くない。

15:15

 通りかかった自動車に道路で転倒して意識を失っているところを発見され、119番通報されたようだ。その時、発見者と2~3言の会話をしたそうだが、内容はおろかその事自体全く覚えていない。しかも、救急車にも自力で乗ったのだそうだが、それも全く覚えていない。救急車で応急手当をしてもらっている最中に、警察官から簡単に事情聴取された。目撃者もおらず、事故から数分が経過していることを知った。見通しの悪い道に倒れていたので、運が悪かったら骨折と裂傷では済まなかったかもしれない。大破した自転車は現場近くにロックして止めておいたと救急隊の人に告げられた。

15:20

救急治療室  搬送先の病院が決まり、救急車が走り出す。事故の記憶が全く思い出せず、ただ、下顎と下の前歯が抜けて痛いこと、上唇に違和感があって顔面が血だらけだということを知った。両手の人差指と中指が、針を刺されるようにピリピリと痛む。病院まで意識ははっきりしていたつもりだが、状況がよくつかめずにいた。眼鏡が壊れたことに気付いて、それで周囲がぼやけて見えるのも気分がよくなかった。1)

15:30

 千葉中央メディカルセンター(旧 加曽利病院)の救急外来で、まずCTを撮ってから問診して、脳震盪からくる意識障害があったため、脳神経外科に入院することになった。その頃には救急隊に呼ばれて駆けつけた妻も到着していた。口の周りの痛みは思っているほど酷くなかったが、前歯が2本抜けて下顎の骨が折れて上唇が裂けてしまっていたので、血が出て腫れ上がって気持ち悪かった。それよりも両手指の2本ずつがビリビリと痛いのが不気味だった。

2010/06/26

 2日目の脳神経外科のCTでも特に問題はないとのこと、指の痺れは脛椎損傷の疑いがあったが、麻痺が残るというよりは時間の経過で改善するということだった。少しずつ口の中の出血は減っているが、この日に上唇の裂傷と抜けた歯の痕を数針縫ってくれた。その夜から出血は断然少なくなったが、それでもネバネバする血が混じった唾を、昼夜を問わず何度もビニール袋に吐き出していた。

2010/06/27

 事故当時の記憶はやっぱり思い出せない。口の中はだいぶ楽になったものの、下顎が折れているので口が1cmくらいしか開かないのがわかった。自分では開いているつもりでも実際には全然開いていないのだった。ゼリーくらいなら食べることができたので、点滴をはずして5食ゼリーを食べた。朝昼晩の高カロリーのババロア?とやっぱり高カロリーの重い飲物(流動食)にはちょっと閉口したが、ティースプーンで一杯の量をチビチビ食べる姿は何とも情けなかった。

事故現場

2010/06/28

鼻管(ハナクダ)と矯正器(シーネ)  口腔外科に転科になって、本格的に顎の治療が始まった。手術後(とその前も)しばらくの間は口が使えないから、鼻管(ハナクダ)と呼ばれるものを鼻から胃へ通したのだが、2度の試技では気管に入ってしまい、確認でガスをシューっと入れると、ものすごく気持ち悪くなって少し吐いてしまった。そもそも自分は嘔吐反射が強いらしい。3度目でようやく胃に通すことができたが、こんなもん慣れることもできず、喉の奥に24時間何かがブラブラしていて痛い。ちなみに点滴の針も2回位置を変えたが、実際にはうまく針が入らなかったり液が漏れたりして、10回くらいやり直した。針はどんな針でも痛いものだ。

2010/06/29

 上の歯と下の歯それぞれに麻酔をしながら固定用の金具をギリギリと締め付けて埋め込んで、それに付いているフックを医療用の強力な輪ゴムで固定するという顎間固定というのをした。唇はわずかに動くが、歯は全くといっていいほど動かない。要するに折れた下顎を正常な上顎で牽引して、手術可能な状態になるまで保持するということだろう。これが想像するより苦痛で、痛いということより不便というべきか。普段如何にだらしなく口を開けているのか、思い知った気がする。

2010/07/04

経管栄養  7/5pmに口腔外科の先生から手術の説明がある。7/6pmにその手術がある。顎の骨の手術は10年位前までは案外ポピュラーだったらしい。これはつまり、交通事故では必ずと言っていいほど顎をやられていたからなのだそうだ。しかしエアバッグの普及や事故件数の減少で、最近では交通事故でというよりもスポーツで負傷する人が増えたんだとか。自分の場合はどっちなんだろうと思いながら、ボロボロになった帽子と手袋(しかも血まみれ)が、自分の顎と前歯と唇だけで済んだことに感謝しなきゃいけないと思った。擦過傷はほとんど良くなって、日焼けした肌を一足早く剥いたような感じだ。手指の痺れもほとんど気にならなくなった。不思議と手術に対する不安や恐怖はない。おそらくそれらは自分の疾病への理解度の低さが、医師への不信感へと転化されることで生じる方向を失った無量感なのだと思う。言わば根拠なき遺恨なのであって、僕にはそうした概念がない。これはすなわち、なぜ入院し、なぜ診察を受け、なぜ手術するのかを理解しているということである。実際の術式や治療方法に関しては、その専門性から患者側の範疇を越えているのが明らかだ、ということも理解できる。それよりも、このハナクダをどうにかしてほしいです。

2010/07/05

 明日の顎の手術の説明と同意書の確認をした。駆け込みでこのハナクダにも慣れてきた。食事しながら歯を磨いたり、食事しながらトイレやゲームやドキュメント作成が(両手を使って)できるのが素晴らしい。いや、素晴らしくないか。

2010/07/06

5:48

 手術当日の朝を迎えた。摂取カロリーが低いのとダイレクトに向精神薬を胃に流し込んでいることもあり、寝付きと寝起きが素晴らしくよい。ハナクダから注入したらすぐ眠れるし、朝は5時前にスパッと目が覚める。眠気はないから、つまりこれが「よく眠れる感」なのかもしれない。昨日の昼過ぎに手術前なので風呂で体をよく流してきた。何気なく体重計に乗ったら、なんと70Kgを切るか切らないかのい値だった。BMIにして23で、以前は27だったから、入院生活で標準体重まで落ちたことになる。

 今朝になっても手術の緊張感はない。成功とか失敗とか何か問題がありそうとかいう疑問がないから不安もないのだが、なにか患者側の手応えみたいなものってないのだろうか?いやいや、こんな軽口を叩けるのは今のうちかもしれない。手術後は顎を針金で完全固定して一週間安静にしてなければならないし、その間もそれ以降もしばらくはハナクダ(経菅による食餌)のお世話になるのだから。

8:10

ナースコール  朝の回診で今日手術をしてくださる口腔外科の先生がにこやかにやってきた。手術というと日常的にはあり得ないちょっと回避したいイベントなのに、先生方が余裕の表情をしているとこちらもなんとなく気が楽になる。入院していて思ったことがある。病院っていうものは、人体が正常でない状態にあるのを修復するための場所として存在している。近代における医療や看護は、すでにある一定の範囲で形式化されていて、治療プロセスや看護プログラムに感情を挟む必要性を最大限に排除しているんだな。(つまり、ヒューマンエラーを回避するのに必要なマニュアル化である。)いや、実際には医師も看護師も人間だから感情を持っているのだけれど、ひとりひとりの患者に可哀想などという気持ちを持っていたら、その感情が治療の手枷足枷になってしまうのだろう。だから、どこかドライで手続き的に治療と看護が進んでいくのだと思う。それはそれでいいのだと思うのだ。医師は治療全体を考えたり、たくさんの患者をパラレルに診察するから、それだけでも重労働だと思う。看護師は交代制だが24時間誰かが必ず患者に付き添っている。適度な思いやりと自主性を喚起する言動で患者を快方へ誘導していく。吐瀉物や汚物、血が付いたりして汚れたシーツや衣類、ごみの処理なども業者を分けたり、手順を工夫することで病院内では日常的な動作になってしまっているのだから関心してしまう。こうしたこととは正反対に、看護師が特定の患者に対して親身になって話を聞いたり、看護の末に患者が亡くなったことに涙を流す姿も見た。そうした人間性はもちろんとても大事だと思う。

 そういえば精神科はどうなのだろうと思う。幸いにしてそちらに入院したことはないけれど、おおよそ同じなのかもしれない。精神科は他の科に比べると、体力はあるが言うことを聞かない(聞けない)人が多いだろうから、看護師は苦労すると思う。だから男性看護師が多いのかなとも勘繰ってしまうのだった。デイケアのメンバーの多くは入院経験者だが、みんな確かに障害はあるけれど、普通に会話したり運動したり共感したりできるし、規律を守ることもできる。それだけ回復しているという証であるが、そう考えると素晴らしい症状の改善なのかもしれない。自分はどうか?顎の骨折は別にしても、心の回復の方向性をある時期が来たら見定めないといけない。

2010/07/07

中央手術室  生まれて初めての手術は想像していたよりも怖くなかった。もっとも、手術が終わってから今朝までは顎はジンジンするし、ハナクダはイガイガして苦しいし、胸には心電図の電極があって、バルーンと呼ばれるオシッコの管もつながっていた。両足の脛にはエコノミー症候群を防ぐためのエアーバッグが、左右交互に膨らんだり萎んだりしていて、その度にシュコーッスーッという音をたてていた。低体温を防ぐため布団の上掛けが二重になっていたが、あまりに発汗が多いので一枚を胸元までかけて寝ていた。抗生剤の点滴の影響で熱っぽかったので、頭の後ろの氷枕が気持ちよかった。顎はかなりジンジンして苦しかったが、座薬を使うほどではなく、氷枕ですこし神経が麻痺しているくらいでなんとか耐えることができた。

 手術室から手術台に仰向けに寝るまで完全に意識があって能動的に行動していた。この時点で手術室の圧倒的な迫力で即座に気圧されそうになるのだが、医師や看護師の手際がいいのだろう、そういう感覚に陥る隙は全くと言っていいほど皆無だった。手術台に寝そべると口腔外科の医師が挨拶をしてくれた。それと同時に看護師や麻酔科の医師が手際よくモニター装置や点滴のラインを確認していった。僕はただ体の力を抜いて寝ているだけだ。麻酔科の医師が自己紹介してから「点滴のラインから少しずつ麻酔をかけていきますよ~。」という声が聞こえたかと思ったら、どこからともなく有機溶剤のような、あるいはアーモンドのような臭いがしてきた。その時僕は何か言いかけたように思ったがそのまま麻酔の眠りに落ちて、そして下顎骨骨折の修復手術がはじまったのだった。

 朝の診察で、一時的に固定具が取り外されていた歯に、再び今度は針金で顎間固定をした。ワイヤーは左右に2本だが輪ゴムではなく針金なので、その分の遊びが少ないからそれだけ顎の置き場に困ってしまう。手術前にはだいぶ顎の傷と腫れがひいていたのが、手術をしたことで下顎がプクプクに腫れ上がっている。それにしてもレントゲンで下顎にチタンプレートを埋め込んだにしては顎に傷がない。ということは(あまり想像したくないのだが)下唇から顎までをベロンと剥いて、歯と歯茎と顎の骨とそれにくっついている筋肉や神経なんかを診てくれたということなんだろうな。医学って素晴らしいです。

2010/07/08

 入院していると摂取カロリーが必然的に制限されるから体重が落ちる。同時に運動もしていないので筋力も低下するが、無駄な体脂肪が削ぎ落とされていくのはそれだけで嬉しくなる。(BMI値が27だったのが23くらいまでになった。)ベッドの上でストレッチやスクワットでもすればいいのだろうが、運動によって代謝量を高めるとすぐにお腹が減ってしまう。間食できればまだいいが、顎間固定されていて何も食べれないから、結局何もできない。御飯が食べれるっていうことはそれだけで幸せなことなんだと身に染みて思った。もっとも僕は乱れた食生活や長年の飲酒などで臓器を痛めたわけではないし、妻の料理はとてもヘルシーで美味しいから体はいたって健康だったはずだ。顎の骨を自転車から落ちて折ったことが、すなわち食事ができないという試練となって自分の身に降りかかってくるとは予想もしてなかったのだから。

口腔外科  そういえば、ここの病院の口腔外科(矯正歯科、インプラントなどかなり高度)で面白い発見があった。毎朝病棟まで医師が回診しに来てくれて様子を話すのだが、最後に「それでは朝9時に下に降りてきてくださいね。」と言うのだ。「下」とは病棟の下にある口腔外科の外来診察室のことだ。はじめの頃は本当に9時になってから下に降りていっていたのだが、するとなにやら外来の看護師から「9時前に来ていてくださいね。」みたいなことを言われた。なるほど、先生は9時とは言っているけれど、それより前に行くのは礼儀だよなと思ったのだった。今度は回診の時にたまたま眠気が強くて話ができなかったのだが、病棟の看護師からは何も指示がなく、9時頃になっても外来の看護師から連絡がなかった。でももしかすると…とか考えていたら、すぐに外来に呼び出された。診察はいつものとおりだったが、今度は外来の看護師から「毎朝9時には来ていてくださいね。」みたいなことを言われてしまった。ん?つまり話をまとめると、口腔外科で入院している患者は毎朝9時前に外来待合室に集合せよ、ということらしい。それならそれで最初から言ってくれればいいのにさぁ…。このフロアは口腔外科を含む外科、脳神経外科、整形外科の病棟で、外科の患者さんたちは回診の時に様子は聞かれても外来に来いとは言われていない。つまり口腔外科は例外なのだった。もっと早くに気が付くべきだった!

2010/07/09

10:40

 今日は午後に両親が見舞いに来る。有り難いけど、ちょっと照れくさいなぁ。格好悪いとかそういうことじゃなくて、命の危険があるとか後遺症が残るとかいう怪我じゃないから、遠くから来てくれろのが申し訳ないと思うからだ。それともうひとつ白状すると、誰であれ見舞いに来ると少なからず精神力を消耗するから、自分の中の心の分岐点・結節点は避けられるなら作りたくないと考えてしまう。いや、これはある意味では親孝行なんだよな。怪我して入院している時点で親不孝だけど…。

2029号室  そんあこともあったり、不馴れで信用ならない看護師がチョロチョロしていたり、ナースステーションが組織的な動きをしていないのがとても気になって、昨日の夜から頭の鈍痛が続いている。薬を飲むほどじゃないけど、ストレスが溜まっているときの嫌な感じである。自分の気にし過ぎ・考え過ぎなのは分かっているので、myloで一日中音楽を聞いている。環境に適応してくると人々の行動パターンや、そこから生まれる衛生観念の相違・生活臭・生活音が気になってくる。看護師の一見形式的でいて、実は曖昧な看護手順2)とか、隣のオヤジの咀嚼音とか(自分の咀嚼音ですら腹立たしいことがあるから。)、猛烈に頭の中に入ってきてイライライライラしてくる。これは良くないと音楽を聞いて一人の世界に入ると、こんどは雑多で荒唐無稽なイメージの連続が頭の中に浮かんでは消えていく。これを俗に妄想というのかな?僕にとっては日常的なことなので、単なる空想だと思っているのだが。そもそも妄想という言葉を世間が安易に使いすぎているのだ。トラウマも妄想も抑鬱も本来の精神科の言葉の意味は異なっている。まぁそれはそれでいい。みんなが間違っていれば少数の正しい人はマイノリティとか呼ばれて、そちらが間違っているとか言われるからね。長いものには巻かれていないと、社会の中では生きていけないのかもしれない。ちなみに咀嚼音が気になるというのは、ペチャペチャズルズルというような下品な食べ方なのだが、追い討ちをかけるように自分がハナクダ(鼻管)で経菅栄養なので食べられないという妬みも多分に入っている。

2010/07/10

10:20

 朝の診察を終えて風呂に入ってきた。よせばいいのに体を洗った後で風呂に浸かっていい気分になってしまった。汗が止まらない。汗を流しに行ったのに、汗ビッショリという馬鹿さ加減だ。新しいパジャマを持っていって着替えたのに、風呂に行く前より汚れている有り様だ。もちろん新しいパジャマをもらって着替えたが…。来週には顎を固定しているワイヤーもはずれて、「刻み食3)」と呼ばれる食事ができるといいなぁ…(勝手な希望的観測)。鼻管(ハナクダ)には結局のところ慣れてしまったが、食事ができないのはやっぱり寂しいことだから。胃の中に入れているのが液体カロリーメイト(ノンフレーバー)だとしても、人間は味を楽しむためにできているんだと痛感したのだった。最初にシリンジで薬を胃にいれると、喉がゴクッとなるのが楽しい。いや、楽しくない。そういえば、風呂に設置してある体重計に乗ってみたら69Kgだった。や~、怖いくらい痩せたね。痩せたのはいいけど筋力が確実に落ちてる。だって上のフロアに上るだけでフラフラしてちょっと怖かったもの。あ、汗が垂れた。

11:30

不思議な椅子  そういえば昨日は両親が見舞いに来てくれた。遠くから(といっても首都圏だけど)出てきてすぐに帰っていった。昔は千葉に住んでいたのだから、ちょっとくらい様子でも見ていけばいいのにさ。4)昨日の夕食?後、しばらく目が冴えていたので、入院している病院の探検をしに出掛けてみた。といっても、一般外来とか事務受付とかしか見れないのだけれども。自分が救急車で運び込まれた救急外来とか、何度も写真を撮った放射線科がどこにあるのかもようやく把握できた。毎朝診察に通っている口腔外科は他の外来とは離れた場所にあった。それでも隣がCTで正面がMRIというなかなか洒落た配置の場所にあった。斜め前が売店なので、気軽にオヤツが買えない。(買うつもりもないけどね。)前述したかもしれないが、ここの歯科・口腔外科(インプラント、矯正歯科)の診察室は凄い。歯医者さんでよく見る椅子とエアタービンの治療用設備が8基くらいあって、口腔外科部長は3基、別の医師も2基を手玉にかけて次々と手技をこなしていく。よく考えると、歯科医というのは診察の内容がいつでも半分手術みたいなことをしているから、診察中はずっと神経を使っているのだと思う。(当たり前だが。)麻酔もするしその場で切開したり歯を抜いたり傷を縫い合わせたりする姿は、とても器用で凛々しく見えるのである。もうひとつ思ったのは、歯医者さんの治療を受けると、ほとんどの場合に治療前より多少は楽になるということだ。少しずつ治療の完成形に向けて手技を重ねるんだけれども、一度の手技だけ見てもその前後で楽になっているから不思議だ。一般論として歯医者さんは痛いから苦手という認識があるが、それは自分の虫歯や歯周病が痛いのであって、歯科で行う手技は痛ければ麻酔もするから、実はあんまり痛くない。「痛いときは左手を挙げて下さいね~。」と優しい声だってかけてくれるのだが、実際に左手を挙げても「はい、頑張って~。」とか「痛いですよね~。」としか言われない。ある意味、治療に関しては現実的で非情である。

18:50

 全然必要ないけれど、自分の家の作業部屋の隣がMRIで、向かいの部屋がCTだったら楽しい。どちらも究極の立体スキャナだから、手当たり次第にスキャンしたい。もちろん自分の体が最初だぜ。スキャンしたデータは4GBのUSBメモリに落とせるんだろうか?そんでもって作業部屋に口腔外科に置いてある手技用椅子(正しい名前が分からない)をワンセット置く。エアタービンのルーター工具に加えて、ハンダゴテと液晶パソコンとパーツボックスを置いて、口を濯ぐ蛇口からはキンキンに冷えたお茶かランダムでコーラかビールが出てくる。照明もあるからリクライニングシートでハンダ付けができるよ。もし芋ハンダになってもバキュームがあるから便利。ただし吸入口から水が噴霧しないようにしないといけないけど。レジンもあるし石膏もあるならフィギュアだっていけるね。俺の趣味じゃないが…。

2010/07/11

6:40

マイロでマイロ  経菅栄養をしながらmyloで音楽を聞いて日記を書く。究極の「ながら」行為かなぁ、などということはどうでもいい。昨日の晩に入院してきた隣のベッドの男はイチイチうるさい。ペラペラよく喋るし質問と注文が多い。一晩中イビキが豪快だし(精神科から眠前に睡眠薬と四環系抗鬱薬をもらっていてよかった。)、朝にはスヌーズのある目覚まし時計で周囲の患者まで目覚めさせる。もちろん自分はその前に洗顔を済ませた(食事前に歯まで磨いた!)のは言うまでもない。とにかくうるさい。自分の一番苦手なタイプかもしれない。そういえば、勤めているときにも同じタイプの人間がいたよな。仕事ができるとかできないとかじゃなくて、生理的に受け付けないのだよ、イワン君。職場だけならまだしも、病室で24時間一緒というのはちょっといただけない。

2010/07/12

6:40

事故で抜けた歯  今週中にハナクダ(経菅栄養)が終わるといいなぁ、という根拠のない期待をしている。両手の二本の指のピリピリした痺れは治まっていたが、この数日どうも両手の指すべてが少しではあるが痛くて痺れていることに気が付いた。最初は点滴が終わった後遺症とか、二本の指が回復傾向にある過渡期なんだと勝手に思っていたが、全部の指が痛いのはちょっと異常だ。力が入らないわけでもないし、激痛というわけでもないが、とにかく痛い。若干ではあるが動作が鈍い気もする。毎日myloで日記を書いているから、一瞬これは腱鞘炎なのかとも思ったが、よく考えたら入力はすべて親指でやっていた。今日の回診の時に先生に言ってみようと思う。口の針金(顎間固定)が終わるといいなぁ…。

9:10

 朝の診察が終わった。指の痺れは脳震盪と脛椎損傷の疑いもあったので、症状の経過からすれば特に問題はないだろうとのことだった。診察では歯が抜けた歯茎のところを抜糸してくれたので、ヒキツレて痛い感覚がなくなった。明日は顎間固定している針金を取り除くそうだ。たぶん代わりに以前使っていた強力な輪ゴムに戻って、食事の時だけ輪ゴムもはずすということになりそうだ。というのも、明後日に退院するという隣の席の入院患者さんが、やっぱり顎の骨折だったようで、同じようなことを先生から言われていたから。僕も順調に行けばあと一週間ちょっとで退院できそうだ。

2010/07/13

4:10

 隣の患者はイビキがうるさいだけじゃなく、ギリギリと歯軋りまでしやがる!でもまぁ、眠るのは入院患者の仕事だから、百歩譲って多目に見るとしても、朝は目覚ましをスヌーズでピーピーうるさいし、昼間は勝手に外出したりベッドを抜け出して携帯電話で何やらしてるし、ベッドに戻ってきたと思ったらガサガサゴソゴソやってるし、携帯電話の入力音やイヤホンの音楽がシャカシャカ漏れていたりと、とにかく四六時中うるさい。患者の意識が薄いのか、そんなに仕事が大事なのか?あんたの大腸、潰瘍があって腫れてて食事はおろか手術も危険でできないんでしょ?考えれば考えるほど自分が馬鹿馬鹿しくなるので、頑張って考えないようにしたり、自分を外界からアイソレーションする努力をしているのだった。根治的問題解決ではないけども。いつか怒鳴っちゃうかも…。

 両手指の軽い麻痺が気になる。そんなに痛いわけじゃないが、じっとしていてもジワジワと痛いし熱っぽい感じすらする。看護士さんは神経が元に戻るまでしばらくかかると言っていた。確かに事故からそれほど時間が経っていないから、こうした変化は自然治癒の現れなのかもしれない。それにしても湿布か何か貰おうかと思う。動かすのは特に支障はないし力を入れることもできるから、生活にはそれほど不自由しないけど、これがしばらく続くと思うとちょっと嫌かな。

9:50

 昨日の診察で告知されていた、顎間固定の針金を取り除いて、代わりに以前使っていた医療用の強力な輪ゴムになった。歯茎を縫合していた左半分の糸も抜いた。(ちょっと痛かった。)ハナクダもなくなったので顔がずいぶんと軽くスッキリした気がする。といっても人相がスッキリしている訳じゃなく、付属物がなくなった自己満足的スッキリ加減である。ハナクダを抜いた直後に消化液が鼻と喉の中に付着してオエ~ってなったけど、文字通り喉元過ぎればなんとやらである。今となってはハナクダがないと、それはそれでちょっと寂しい。いや、それは強がりというものだ。どうせ半年後には同じことをするのだから5)。そんなわけで、今日からお粥と刻み食と呼ばれる給食が食べられる。食べた後はもちろん歯磨きしてから輪ゴムを付け直さなきゃいけないが、味気なくて退屈だった経菅栄養に比べればはるかにいい。そもそも、口で食べられるのが幸せだ。早く「立ってるお米」をモリモリ食べたい。吉田うどんとかベーグルとかもいいね。

19:00

全粥と極きざみ  吉田うどんとかベーグルなんてとんでもなかった。顎を固定している輪ゴムをはずして、お粥6)を口へ運んで含むのだが、全然噛めてない!噛んでるつもりでも顎がうまく動いていないのだ。それでも少しずつ慣れると「噛んで食べている風」に食事はできる。でもこれでは折角の食事がとても味気無いものになるのだった。食感や歯触り・舌触りって大事だと痛感したし、噛めるという動作は想像以上に難しいということも実感した。若いときにギックリ腰をやって、腰という存在の有り難みに感謝したものだが、まさか顎まで!というのが正直な感想だった。ちなみに自分が体感しただけでも、顎は食べることだけでなく、喋ったり、呼吸したり、起き上がったり、頭を動かしたり、力を入れたり、あるいは何気なく顎に手を置いて考え事をしたりと、様々な動作の要になっていた。人体って本当に神秘的だ。食事できるようになったのはいいのだけれど、食後に歯を磨いて再び固定用の輪ゴムを装着するのが無茶なくらい難しい。すべての歯に矯正用の固定具が付いているので、いくら歯を磨いても口の中の異物感が拭い去れない。輪ゴムは小さいし強力だし、鏡を見て慣れないピンセットでやるものだから、毎回奇跡的に固定できるという状況だ。これって看護士さんにやってもらった方がいいのかな?

2010/07/14

5:50

 相変わらず、眠前の薬のおかげと低下した体力のせいで、寝付きと寝起きが恐ろしく良い。すぐに眠れて5時前にはスパッと目が覚めて眠たくない。洗顔をすませて軽く20分くらいストレッチをした。窓から見える空は雲が多かったが、今日はいい天気になりそうだ。救急車で運び込まれてから20日近く経過しようとしているが、この病院の位置関係とか周辺の状況が皆目見当がつかないのであった。もっともここには土地勘がなくいし、病院も名前をかすかに聞いたことがあるくらいで、しかも病院から一歩も外に出たことがないのだから仕方がない。7/20は下総の精神科と内科の受診予約があるので、口腔外科の確認をとって外出してみようと思う。残念だが自宅には戻れないのだ。

8:20

ベッドの上で  朝の回診が終わって、トイレに行く前の哲学中。今朝の空は千変万化の雲模様だ。薄い群青色の空に高い雲が点々と広がって、低い位置には大小様々な雲が千切れながら飛んでいるという、青と白のレイヤーが光と影を伴って輝いている。病院の窓から見える景色には、金網の入ったガラスと無機質な病棟があるせいで、今日のような美しい空の動きも半分以上はよく見えない。ときどき聞こえてくるヒューヒューという煙突の風切り音が、空調機の騒音を気持ちよくかき消してくれる。屋上に見える排気塔からは絶えず不気味な気体が吹き上げられているのが見えるが、時折そこに二羽のカラスが飛んできて、チチクリ合ったりお喋りしたりしていた。なんだか若い恋人同士のようにも見えたのだった。風に乗って急旋回したり建物ギリギリを滑空するツバメは、春から夏へという季節の移り変わりを感じさせてくれる。まるで棒の先に糸で吊ったオモチャの飛行機のように、クルクルと飛び回る姿は実に清々しい。そして自由奔放に中庭を飛び回っているスズメ達は、ここに閉じ込められている人間達を向こうからジロジロと観察しているようだった。しかしながら、人間は病気が癒えても空を飛ぶことはできない…。

9:10

 診察ですべての抜糸が終わって、口の中には矯正用の金具だけが残った。来週に精神科の受診のため外出したいことを先生に告げて、なんとなく退院予定についても尋ねてみたら、来週半ばくらいだと言われた。食事に関しては顎の骨が折れていたことで咀嚼していなかったし、前歯も事故で失ったので勝手が違うのはしばらく仕方がないだろうと言われた。それはその通りだと思った。正直、今日の朝食でもお粥と離乳食以外は食べずらいと思ったので、養生と訓練のためにももうしばらくは入院生活なのだ。

14:20

 病室のベッドから見える外の光景は部分的には美しく見えるが、その質感までは伝わってこないようだ。屋外は梅雨明けを感じさせるような暑さだったらしく、見舞いに来てくれた妻は喉が渇いたと言っていた。一緒に売店へ出掛けて妻はアイスを、僕は噛む練習を兼ねてどら焼きを買って食べた。どら焼きは生地が適度に歯応えがあるので「食べている感」があってとても美味しかった。また機会があったら固形物に挑戦して、顎と歯と筋肉の咀嚼機能の強化に努めたい。前歯がないから噛みきれないけど、臼歯は問題ないからとりあえず咀嚼はできるのだ。

2010/07/15

6:10

TinyForthを思案する。  5時に目が覚めてデイケアで教わったストレッチ体操を30分間やった。腹式の深呼吸を意識すると、酸素が脳や体に染み込むようで気持ちいい。ゆっくりと筋肉を伸ばしたり縮めたりすると、「あ、俺って生きてるんだなぁ。」と実感する。洗顔をしてから今日の分の薬を整理した7)。窓の外は昨日の天気が嘘のように曇っている。昨日のラジオでは九州や中国地方では大雨が降っているとのことだった。梅雨時期は日本のどこかで災害が起こってしまうのが嘆かわしい。

 顎と歯の治療は、矯正器は残っているものの、抜糸も終わって消毒以外には特にないのだろうと思う。そうは言っても食事が思うようにできないから、そのリハビリをしなければいけないのだ。抜けた歯や欠けた歯の治療は、自宅近くのかかりつけ医にお願いするつもりだ。だって、ここの病院は通うのには遠すぎるからね。インプラントをするのもちょっとアレなので、部分入れ歯でいいと思っている。それなら保険内診療で、どこでやっても変わらないのだ。その前に顎の骨折と歯の矯正を直すのが先決だ、ということは認識しているつもり。

9:10

 朝一番に口腔外科で診察を受けた。一通り口の中を確認してから、消毒と開口測定をした。だいぶ口が開くようになったし、まだぎこちないけど噛んで食べることもできるようになった。硬いものはまだ無理だけどね。ついでに来週の水曜日に退院予定だということも告げられた!やったぜ、俺!

12:50

 今日は妻がいつもよりも早く見舞いに来てくれた。タッチの差で一緒に食事をすることができなかったが、退院決定のお祝いに買ってきてくれたパンとコーヒーを食べた。とっても美味しかった。やっぱりまだ顎の勝手がわからないから、噛み切ったり口の中でモグモグする動作がぎこちないが、パンはそういう意味ではちょうどいい練習素材になる。何より美味しいし。給食は二週間ぶりくらいで食べ始めたのだが、それに比べると市販の食品はとても味が濃いんだなと思った。それなりに美味しいけど、やっぱり人工的な美味しさだということが明白だ。僕はグルメじゃないが、なるべく素材の味と香りと食感を楽しみたいなぁと実感した。

2010/07/16

10:00

TinyForth字句解析  気持ちよい目覚めだった。30分のストレッチをしてから、昨日から再び考え始めたTinyForthの言語仕様を、机上で試行錯誤しながらメモ用紙にペンを走らせていた。食事はずいぶんマシ(給食の方じゃなくて、自分の食べる技術の方)になってきたから、少し噛み応えのある形状の「一口大」というのに変更してもらった。診察でも問題なしと言われ、来週の退院はほぼ決定だと思う。今日は妻の両親が見舞いに来てくれる。自分の両親のときと違って、こちらはちょっと遠くから出てきてくれるので、とてもありがたいことなのだ。ただ、今回の事故のことだけでなく、心の問題でも自分の不甲斐なさから心配をかけてしまっているから、そういう意味では申し訳なく思ってしまう。それでも元気な顔を見せれたらいいのかもしれない。

16:30

 片道6時間かけて高速バスと電車で御見舞いに来てくれた妻の両親に本当に感謝感謝である。楽しい会話に笑いっぱなしで、少し顎が痛くなってしまった。御見舞いに来てくれる人が元気だと、こちらも元気になるから不思議である。たぶんそういう「気」というかエネルギーというようなものをもらうんだろうな。おかげで自分がとても元気になった気分で、来週の退院が待ち遠しい。その前に久しぶりに下総へ診察を受けに行かなければならないのだが。そういえば顎の骨折の話をしていたら、歯の噛み合わせは大事なんだ、という話題でいろいろと興味深いことを聞かせてもらった。噛み合わせが治ることで肩凝りや頭痛をはじめ、あまり顎とは関係無さそうな場所の疾病が治るという話だ。僕も何となく知っていたつもりだが、今まさに自分がその対象者なのかもしれないと感じた。事故の前より奥歯の噛み合わせが良いのは気のせいじゃないし、これで心の方も少し穏やか(でいいのかな?)になる気がしてくる。病気は一朝一夕に治るものじゃないけど、そうした小さな改善が将来の快方に向くベクトルの変化点になるんじゃないかな。少なくとも僕はそう思った。

2010/07/17

3:30

 いつもより一時間早く目が覚めてしまった。昨日の興奮が残っているのか、それともはやる気持ちがそうさせるのか。もちろん眠気が残っているわけでもなく、6時間は眠ったので睡眠不足ということもない。眠たくなったら眠ればいいし。だって、一日中ベッドの上で本を読んだり考え事をしているのだからね。隣のうるさい人は、昨日の昼間に派手なイビキと歯軋りで駄眠を貪っていたので、僕が耐えられなくなって机を蹴飛ばしたのが応えたのか、耐えられる程度に静かに眠っている。時々ギリギリグォーってやってるけど、豚野郎でもやればできるじゃねぇか。だけど、就寝時間の直前にコロンか何かをつけるので、虫よけスプレーみたいなケミカルな臭いが漂ってきて不快だ。僕は入院がはじめてだが、常識的に考えて4人部屋でそういうことをするだろうか?もう退院できるんだから、外泊でも何でもしてくれ。ちなみにその人、中古車ショップのオーナーらしいんだけど、こんなにデリカシーがなくて無神経で非常識な人でも、とりあえず経営者になれるんだなぁと感嘆してしまった。それはともかく、今日はお風呂に入りたい。一昨日に入ったばかりだが、昨日の面会で緊張したせいで汗をいっぱいかいたから。本当なら毎日でも入りたいところだが。今日の診察で顎間固定の輪ゴムをはずす練習をするように言われるといいな。固定していれば顎や頬の筋肉を使わなくて済むので楽なのだが、その癖がついてしまって、食事の時などにうまく口が使えないのだった。顎の骨が折れてるんだから仕方ないのだろうけど。

8:20

 考え事をしていたら5時過ぎになってしまったので、30分かけてストレッチしてから洗顔、気持ちのよい目覚めだ。あ、すでに目は覚めてたけど。隣の男8)は大嫌いだし関わりたくないし考えたくもないが、一方的に入ってくる断片的な情報を統合すると、良性のポリープはあるが、結局は単なる腸の炎症らしい。もちろん手術なんてしてない。なにやら「鯨のコウガンの刺身を食べた」とか言ってるけど、それなら自業自得ってことだ。もしかすると寄生虫もいるんじゃないの?誰もが驚愕する(隣の男の)イビキと歯軋りの原因は、たぶん24時間体制で使っている氷枕だと思う。誰だって首から頭にかけてを冷やし続けたら中枢神経が麻痺してくるし、そもそも肥満している喉や首の筋肉だって弛緩するはずだ。これでイビキをかかないはずがない。一日中携帯電話片手にフラフラしてる元気があるなら、普通の枕で寝るか退院してくれ。

11:40

 風呂に入ってきた。迂濶にも部屋に戻って下着を着替えたら、汗ビッショリになって、もう一度着替える羽目になった。体重計に乗ったら67Kgだって!現時点でベストスコアだけどハイスコアじゃぁない。ロースコアというべきか?

17:50

 そろそろ夕飯になる。今晩は思い切ってお粥を卒業して、やわらかめのご飯に挑戦することにした。ちなみに昼食は妻がちょうどいい時間に面会に来てくれたので、一緒に食べることができた。おやつに買ってきてくれたナイススティックは、とてもナイスなスティックだった。食事が変わって便が毎日出るようになったのはいいが、少し便秘ぎみで困ってしまう。もうすぐ退院だから少し我慢するか…。今日は一日中TinyForthのインプリメンテーション9)やレーザー・ディスプレイ10)やソニック・ポインタ11)のアイデアを練っていた。病院にいると本を読んでいるか音楽を聞いているか、あるいはずっと考え事をしていてもいいのだから楽しい。

レーザー・ディスプレイソニック・ポインタ
18:40

御飯軟らか目と一口大  やわらかめの御飯は美味しかった。なにより、おかずも御飯も箸で食べれたのが嬉しかった。(お粥だとどうしてもスプーンでないと食べにくい。)お箸の国の人でよかった。あ違った、食べれるようになってよかった。もう一日くらい様子を見て、月曜日から普通の御飯にしようかな。当分は前歯がないので、噛み切る必要があるものは一口大にしないと咀嚼できないが、だいぶ食事ができることがわかってきた。食事の試行錯誤をしていて思ったのが、パンはどんなタイプでも意外と食べやすいということだ。そもそも手で千切って食べれば噛み切る必要がないし、パンというマテリアルは適度にガスを含んでいて、噛みごたえがある割りには口の中でバラバラになりやすい。具材も適当な大きさにカットされていたり細かくなっているのがいい。早く退院していろいろな料理を食べてみたい。こういうのってある意味ではちょっとした未体験ゾーンなのかも。

2010/07/18

5:10

隔てられた空間  清々しい朝である。病室から見える空は小さいが、青と白の微妙なグラデーションが美しい、とてもよく晴れた空である。外の空気が暑いのか寒いのは、窓が開けられない空調と換気の効いた病室からは計り知れないのがもどかしい。せめてこの乾いて少し肌寒いような、身が引き締まる空気なのだと思いたい。今朝は4時半頃に目が覚めた。久しぶりに何か刹那的な夢を見ていた気がするのだが、内容までは思い出せない。ハッキリ目が覚めたので、昨晩に気が付いたTinyForthのFOR-EACH-NEXT構文のスタック動作について思案を重ねていた。そろそろストレッチをすれば、ちょうど洗顔の時間になる。あまり早く動き出すと他の患者さんの迷惑になるからね。隣の男は少しだけ静かになったが、消灯時間を過ぎてからベッドに戻ってきた様子で、それからテレビをつけっぱなしで眠ったようだ。本当に地球人なのだろうか?

8:20

 中華風の朝食は美味しかった。ふと気が付いたのだが、お箸で食べるというだけで料理が幾分か美味しく感じることができるのかもしれない。何度も言うけど、食事ができるっていうのは素晴らしいことだと思う。二週間くらいハナクダ(=鼻管→経菅栄養)だっただけに本当に感慨深い。TinyForthのFOR-EACH-NEXTは、考えれば考えるほどスタックの挙動が不明瞭になってしまう。IF文とWHILE文も見直して、実行制御系のオペコードの圧縮をしてみた。その余ったところにクロージャー関連のオペコードを追加した。これは無名関数とも呼ばれるもので、SmalltalkやLISPやJavaなどで実装されている、コードブロックを委譲する仕組みなのだ。この仕組みがあれば遅延実行やポリモフィズムが可能になる。

13:00

 昼食の少し前に妻が見舞いに来てくれた。僕のメニューは軟らか目の御飯に一口大の和風ハンバーグ(と付け合わせ)で、妻は自宅で作ってきたサンドイッチだった。ちょっと多目に作ってきてくれたので摘まませてもらったら、給食よりも何倍も美味しかった。魔法瓶で持ってきたレギュラー・コーヒーも、自販機で売っている缶コーヒーとは香りと味が違う。部屋の中に香りが充満しちゃうけどね。

2010/07/19

7:30

 今日は祝日であるが、何の祝日なのかを知らない。そう思って卓上のカレンダーを覗きこんだら「海の日」って書いてあった。ふむ、馴染みがないわけである。病院はもちろん祝日なので休日体制(つまり、外来や診察がなく看護シフトも最小限)なのだが、入院患者はもちろん養生が必要なわけで、僕なんかは風呂に入りたいなぁとかパジャマを着替えたいなぁとか、そんなことを考えているのだった。ナース・ステーションに近い病室にいる患者さん達をトイレついでに何気なく覗くと、苦しそうに唸っていたり、管やコードが何本も繋がっていたり、虚無を見つめて微動だにしなかったりと、想像できないくらい険しく辛そうなのであった。僕は食べるのには苦労しているものの、肉体的には顎と歯以外は健康なので、少なくとも彼等よりは幸せなのだなぁと、その度に実感してしまうのだ。口の中の矯正器は普段は慣れて違和感がないが、食事中の咀嚼妨害感と食後の異物残留感があって、これはこれでとても気持ちが悪い。装着当初なんかは上下の歯が口の中で半回転させられているような突っ張り感があった。顎間固定の輪ゴムをつけると、今でもときどき歯が浮き上がるような感覚がある。輪ゴムをはずしてもこの顎間固定のせいで少し歯を食い縛っているような表情になってしまい、食事の時や会話するときに口が思うように開かない。なぜそうなのかと考えれば、もちろん顎の骨が折れたのと口を強打したことで、歯並びがガタガタになっていたからなんだなと思い返すのだ。前歯2本は抜けたままでまだ治療はできない。上唇と鼻の下にあった裂傷を数針縫った部分は、すっかり肌が滑らかになったが、よく見ると不自然に隆起・陥没して皮膚組織が固くなっており、その陰影によってはちょっと痛々しくもある。一見するとウルファングの治療痕のようにも見えるから、それほど不自然じゃないのかもと自分に言い聞かせる。今は髪の毛が野放図に伸びていて病人ズラしているが、再び以前のように超短く丸刈り12)にしたら、これはこれで迫力出ちゃうんじゃないかと独り苦笑してしまう。眼鏡も壊れたので作らなければいけないから、ちょっとしたイメージチェンジになるしねぇ。いっそのこと髪の毛を金髪に染めてみるか?

御飯軟らか目と一口大  そういえば、今朝のメニューはハムエッグに山芋の短冊に味噌汁だった。シンプルな献立ではあったが、今までのメニューの中でも5本の指に入る美味しさだった。ただ仕方がないのだが、一口大に切られたハムエッグに出会ったのが生まれて初めてだったので、ちょっとした新鮮な驚きがあった。味付け用に醤油の小袋があったのだが、単純にそういう濃い塩味を体が欲していたのかもしれない。僕自身もしょっぱいものが好きだというのもある。もちろん、甘いものも好きだけど…。しかしながら、食事や行動を制限されるのって、ある意味では修行みたいなものだ。自分から始めるか(ダイエットなど)受動的にしているか(入院や合宿など)という差はもちろんあるが、どのみち自分がしていることには変わりない。自分の場合も一日に約2000Kcalに制限されているから、運動しなくても太らない13)。毎朝ストレッチをして軽く汗をかいているが、食事前にそういうことをすると腹が減って困ることになる。ハナクダ(=鼻管→経菅栄養)をしていたときは一日にキッチリ1200Kcal14)であった。だから、ハナクダ時期後半には「ゼリー飲料(ウィダーインなど)」が、現在ではパンが補助栄養食としてとても役に立っている。「カロリーメイト」は食べられないことはないが、案外と固めで太くてパサパサしているため、食べ方を工夫しないと不向きだということがわかった。これが「ソイジョイ」だとおそらく歯応えがありすぎて食べられないだろう。さらに上のステージに存在する「スニッカーズ」なら論外である。そういう食品は単位体積当たりのカロリー摂取量的には優れていても、あくまで健康な人のためのアイテムなのだということを実感したのだった。

11:10

 明後日には退院だというのに、マイロ(SONY mylo2)が面白い。別に退院しても使ってればいいんだけどね。自分はブログなどのテキスト入力をメインで使ってきたが、チープながら静止画や動画の撮影もできたり、簡単な絵を描けたり、HTML+Javascriptを表示してくれるし、一世代前のAdobe Flashが実行できるし、もちろんMP3や動画も再生できるなど、想像していたよりも機能性が高い。今まで自分が勝手に敷居を下げていただけに、ちょっともったいないことをしていたと反省している。これでちょっとだけプログラムが組めたら言うことない。(Javascriptは実行できるが、テキストエディタでは編集できない。もちろんプロンプトなんて出てこない。)まだ壊れたというわけではないが、もっとマイロを100%使いこなすようなギミックを入れておきたいと思う。自分は一応これでも生粋のプログラマだったわけだからさぁ…。

16:30

 ナイススティックはいつ食べてもナイスなスティックなのだ。バナナスペシャルは年に一回でも食べれば口が満たされる代物だった。妻が持参してくれたコーヒーが美味かった。抹茶カステラもグーだった。今日は糖分を摂りすぎたなぁ。せっかく痩せたのにリバウンドが怖い。どうせリバウンドするなら、その分は筋肉にしたい。退院したら自宅の庭の草取りで足腰を鍛えるぞ。

 隣の男に対する嫌悪感を拭い去れなくて困る。普通なら気にしなくていいところを、どうしても気になって自分勝手にイライラしてしまう。これって他者と自分との境界線が曖昧になっているってことなのかな?つまり「他人(ひと)は他人(ひと)」という分別が上手に処理できていないということだ。よくよく考えてみると、こういうイライラの気持ちは隣の男だけじゃなく、身近な人たち全員に抱いているのかもしれない。つまり、自分の周りにバリアを張っているが、バリアの外側の世界も内側と同じように管理されていないと気が済まない、ということだ。これを端的に言うと「潔癖」ということになるのだろうか?自分のテリトリーに点在する理性で処理できる人々に対しては許容できる部分があるが、そうでない人には相手のテリトリーにすら侵入することがはばかられる。こうした感覚は多かれ少なかれ誰にでもあるものだと思うが、僕の場合はもう少し自分自身にストレスがかからないよう鈍感になる必要があると思った。

20:20

 結局あまりに汗っぽいのでコイン・シャワーを浴びてきた。100円で7分間お湯が出るが、全身をボディソープで流してしばらく浴びても4分余った。えっ、俺って3分で済んじゃうの?とちょっと驚いたが、リーズナブルでいいかもしれない。よく考えたらもう一度体を洗っても1分余ることになる。あ、意味無いか。部屋に戻ってきて新しいパジャマを着るまで、背中の汗が止まらなくて困った。もういいかと思って薬を飲んだら、再びスイッチが入って飲んだ水が背中から出てきた。(いや、それは嘘です。)ちなみにシャワー室から部屋まではノーパンで帰ってきた。汗で濡れた下着を着るのが嫌だったから。もちろんパジャマのズボンは履いてたけどね。明日は御世話になってる下総の外来に行くのだから、風呂くらい入っておかないと失礼だという思いも当然あった。デイケアには挨拶に行けないお詫びの連絡をしておいた。外来ではいつもYmtmさんやNgokさん、SkさんやKwsmさんに会うことが多いけど、自分(=Hsmt)は髪も伸びたし眼鏡も違うし、なにしろ10Kg近く痩せたから、印象が変わって判らないかもしれないなぁ。

 Myloが手元にあると思い付いたときに、その考えをササッと書けるのがいい。ポメラなんかも便利かもしれないが、やっぱり時代的にはiPadかな…。

2010/07/20

4:30

 3時半にパッと目が覚めてトイレに行った。このまま起きるにはちょっと早すぎると思って、少しウトウトしていたら4時を回っていた。最近はずっと早起きだったが、特に今日は外出する興奮と緊張のためか、こんなにも目覚めが良いのだろう。それでも睡眠は薬の力を借りて6時間しっかりとれた。昨晩思い立ってシャワーを浴びたので、今朝まで少し体がサッパリしていて気持ちがいい。相変わらず隣の男は歯軋りがギリギリ・ゴリゴリと凄まじい音を立てていて喧しいったらない。自分が想定する「最悪の男15)」かもしれない。窓の外はだいぶ明るくなってきた。静かな払暁の景色は、夜と昼の境界線が四次元的なグラデーションになっているので、そのゆっくりと様相を変える空と雲と光が美しいと思う。病室からは計り知れないが、たぶん昨日の空気が今日の空気に入れ換わって、清々しいのだろう。自分は早起きが得意と言うほどでもないが、この時間の死んだような静寂が好きだ。実際のところ人間のほとんどは眠っているので、感覚的にはほとんど死んでいると言ってもいいだろう。よく丑三つ時には幽霊が出るという話があるけれど、今は深夜でもコンビニが開いているくらいだから、ずいぶん前から怖い印象が薄らいでしまった。自分が大人になったからなのかなぁ。薄暮や払暁はその点で生活の変化がある(昼または夜から他方への状態遷移)ので、自分の中の抽象的で懐古的なメタファーを彷彿とさせるのだった。

顔の傷跡

13:50

 忙しい半日が終わって、再び加曽利16)の病室のベッドの上に臥している。下総17)の外来予約に間に合うように、病院の車寄せで待ち合わせをして、8時にドア・ツー・ドアで妻に送迎してもらったが、到着までに50分かかった。朝の通勤ラッシュは予想していたより混雑していたからだ。(桜木幼稚園の送迎行列、大網街道の千葉方面分岐、仁戸名の病院付近など)それでも受け付けには十分に間に合うことができた。しかしながら、今日から下総18)が電子カルテ・システムの運用開始日だということをすっかり忘れていた。患者はともかく医師や看護師、事務方とシステムエンジニア達が、あれやこれやと混乱しながらの診察だった。7月に入ってから試験運用をするという話は聞いていたが、自分は交通事故で入院してしまったものだから、どうなっていたのかを知らない。もっとも、患者がそのシステムのことを知る必要なんて無いのだが…。僕の担当医は慣れない手つきで処方箋や状態と経過、次回の予約などをキーボードで入力していた。これまでの予約票は細長くてペラペラの紙に手書きして渡してくれたが、今日からは医事課でA4の紙に印刷されて渡されるようになった。ただの予約票なのにA4ていうのは大袈裟だなぁと思った。そういえば、デイケアの出張喫茶でいつもゼリーを買ってくれる温厚で柔和な先生が、今日は看護師相手に殺気立っていたのには驚いた。「ナントカさんは20分も待っているぞ。」とか言って看護師を叱責している姿は、きちんと患者の方を見ている優しい先生なのだと思った。看護師も今までのカルテのバインダーではなく、パソコンとにらめっこしながら患者と医師に指示を伝えるのに精一杯だったようだ。見ているこっちも少し気疲れした。

 下総19)の外来では予想していた通り、YmtmさんやSkさんに会った。Mtmrさんが火曜日の診察なのは知らなかった。予約外だったのかな?たまたま見掛けたYsmtさんとMtmrさんの後ろ姿が同じだったのには苦笑してしまった。名前は知らないが僕が勝手に「フル・メタル・ジャケット(完全装備)」と呼んでいる婆さんにも会った。この婆さん、重そうなリュックを背負い、両手にも重そうな手提げ袋を4つくらい持って移動している(歩いている)。まるで生活道具一式を背負っているようにも見えるし、特殊部隊が長距離武装パトロールに出掛ける完全装備での行軍をしているような雰囲気があるからなのだが…。いつかのブログにも書いたけど、この婆さんの気持ちがまったく理解できないというわけでもないのだ。(つまり、少しは理解できるということ。)自分もカバンの中に「もしかしたら…?」と思うアイテムを詰め込む癖があるし、そうしておくだけで精神的に少しだけ安心できるからだ。(逆に言うと、何かが足りなくなる、必要なときに手元にない、という局面を可能な限り回避したいのである。)だから、この婆さんのリュックに米が10Kg入っていて、手提げ袋にコールマンのオイル・バーナーと飯盒キットが入っていても、少しも驚かない自信があるし、ましてやレーションとか入っていたらちょっと安心するだろう。さすがに一ヶ月前の使用済み下着とかが無造作に入っていたらギョッとするけどな。

 約一ヶ月ぶりに出た外の空気は「清々しかった」と書きたかったが、実際にはムシムシしていて「暑苦しかった」。今までこのトピックのブログでは、病室の窓から見える景色に「清々しい」という言葉を何度か使った。それはガラスの向こうの隔絶した世界がそう見えただけで、一歩その世界へ踏み出せば、現実という試練が待ち受けていたのを思い出させてくれたのだった。もちろんこれは「蒸し暑い」とか「ゴミゴミしてる」とか「うるさい」とか「何か臭う」とかいう物理的な現実だけでなく、「生活する」とか「リハビリする」とか「復職する」とかいうような、社会的・経済的な現実とその責任が伴う。僕の場合は事故と入院の後片付けが終わったら、また心のリハビリに戻らなければならない。つまり、退院してもデイケアの病院通いである。猥雑で粗暴で無神経で非常識で勝手で馬鹿げているこの社会に、どうにかして自分を慣らす術(すべ)を見つけなければならない。どちらが間違っているのかと問えば、自分ではなく社会だと言いたいのだが、その社会の方が「これが君の社会なのだよ!」と言うのであれば、それが正しいということになるのだろうか?そうなれば僕が正しくないということになる。つまり、猥雑で粗暴で無神経で非常識で勝手で馬鹿げている自分であれ、ということだ。それが極端なのは十分に承知しているけれども…。

15:40

 そうこうしているうちに、あと2時間もすれば入院生活で最後の夕食の準備が始まる。明日の朝はいつも通り口腔外科の外来で診察を受けて、病棟で退院手続きを済ませれば自宅へ帰ることができる。今さら、未練はあるか?いや、ない。あったら困るよ、退院だもの…。もっとも、治療は終わってないから、通院は続くからまた来るのだが。一ヶ月も外科に入院していると、他の患者さんや医師の話し声が聞こえてきて、さまざまな理由でここへ来た人達がいるんだと認識させられた。自分を正当化する気は毛頭ないが、事故や無理がたたって病気になった人は、少なからず可哀想だと思うし同情してしまう。理由は知れずとも自分の病気を受け止めて、治そう治ろうとしている姿も、なにか健気な生きる力を感じる。ただし、不摂生が理由であくびれず入退院を繰り返している輩(やから)には軽蔑を禁じ得ない。自分の病気遍歴を自慢し、受けた高度医療を鼻にかけ、エセ医学知識をひけらかし、さも病院は第二の我が家かのように振る舞う人種が、考えられないくらい大勢いることに驚いた。医者もそのことを熟知しているのか、そういう相手には強い口調で釘を刺していた。医学の進歩は著しく、難病だった癌でさえほとんどが治せるようになっている。にもかかわらず、まだ世の中には正しい健康への理解が少ないのでないかと、病床で思う怪我人であった。そういえば、隣のうるさい人は僕が外出している隙に退院してくれた。退院祝いに鯨の刺身でも食べたら精がつくだろう。

18:50

 夕食のメニューは鯵フライと海草サラダだった。良くも悪くも給食の味がしたが、フライが一口大になっているのを初めて見たので、新鮮な感動があった。海草サラダは一見すると食べやすそうだったが、ワカメが想定していたより歯応えがあって、食べるのに苦労してしまった。夕食が配られる少し前に、口腔外科の先生が様子を見に訪れた。今日は火曜日だから、誰かの手術があったのかもしれない。自分の治療は明日で一区切りつくから、口の中の矯正器のことや今後の方針を聞いておかなければいけない。骨折と矯正が治ったら、自宅近くのかかりつけの歯医者さんで治療したいことも伝えたい。

21:15

 消灯時間になった。外出したから汗っぽくて不快度120%だったから、コイン・シャワーでしっかり体を洗い流してきた。今日は昨日と違い、7分間のうち始めの3分をボディソープで体を洗って、終わりの2分で体についた泡を落とした。まだ2分残っていたので、軽く浴室を流してから、首から上と足首から先を念入りに洗い流した。一連のシャワー行程が終わったので、入り口のドアを半開きにして、脱衣所から浴室の換気扇に新鮮な空気を取り込むようにしたら、これが功を奏して涼しく体を拭き上げることができた。帰りは昨日と違ってノーパンでは帰らなかった。シャワー室の外で何人かの話し声がしたので、それを警戒したのだった。病室に戻って全裸に古いパジャマを腰巻きにしてベッドに座り、一息ついたところで睡眠薬を飲んだ。喉も乾いていたのでたくさん水を飲んでしまい、例によって即座に背中から飲んだ水が排出され始めた。(いや、それは嘘。)今日のシャワーではかなり念入りに体を洗ったので、多少の汗をかいても不快感が少ない。明日から家に帰ったらクーラーをほとんど使わない生活になるのだが、いまこうした環境に慣れていると相当に辛そうだ。それはともかく、体を清めたところで入院生活最後の夜を過ごす。これってロマンチックなのだろうか?どちらかというと、修験者が百日修行する前の水ごり(冬場に氷の張った桶から水を汲み出して浴びる荒行)に似ていると思うのは俺だけか…?(※2010/07/21 4:50 以降パラグラフ削除)

2010/07/21

4:50

 昨晩最後の日記は薬を飲んだ後に書いたので、尻切れ蜻蛉になっていた。しかも自分の死生感について語ろうとしていたから、今朝それを読んでパラグラフをすべて削除した。なんてバカなんだ、俺は。眠剤を飲んだ後だったので、少し思考回路が狂っていたんだと思う。

 よく眠れて清々しい朝だ。外は蒸し暑いのかもしれないが、病室は空調ガンガンなのでちょっと寒い。同室の脳卒中のおじさんが腹を壊していたので、なんだか可愛そうなんだけど、クーラーの調節は看護師がしているみたいだから、これがどうしたものかよく分からない。僕も少し肌寒いが、いつものストレッチをしてシャンとしようと思う。今日は退院の日。あぁ、やっとこの日が来た。骨折だって始めてだったのに、まさかそれがアゴで、しかも一ヶ月も入院するなんて、それまで自転車であっちこっち走り回っていたときだって微塵も想像していなかった。ただ、偏執的な死生感によって恐怖への感覚が麻痺していたことと、デイケアでのちょっとした出来事で、僕の心の中に眠っていた焦燥感が再燃してしまったことで、浮き足立つようなソワソワした気持ちでいたのは、はっきりと覚えている。死生感についてはカウンセリングでも話した覚えがあるのだが、皮肉にも今回の怪我はそれを証明する結果になってしまった。入院中にときどきその事を考えていたら、苦痛と転生の分離を倫理的に行う試みが、すでにさまざまな局面で実践されていたり、長い時間をかけて議論されていることに気が付いた。脳は肉体が苦痛を受ける直前にその感覚を遮断し、さらに一時的に生命維持以外のほとんどを機能停止することで、心因的なショック状態を回避するようにできているのではないか?しかも脳それ自体は感覚神経を持っていない。僕が事故前後の記憶がないのもそのあたりに原因があるはずだ。ただし、その状態が物理的あるいは生理的に危険な状態であっても、脳機能が簡単に復帰することはないのだ。これは脳が苦痛を回避することを何よりも優先し、その機能に進化そして特化してきた証拠なのではあるまいか?シロオトの馬鹿げた推論だと笑ってほしいが、それほど的外れでもないと思うのだ。

帰り支度

7:40

 入院生活最後の食事は肉料理だった。朝から肉を食べるのって、私生活ではほとんどないから、少し不思議な感覚があった。口の中に矯正器があるので、食事の後は必ず念入りに歯磨きをしないと、どうにも気持ち悪くて敵わない。おかげで「食べたらすぐに歯磨きする」という良い習慣が身に付いた。反対に(これは仕方がないのだが)顎間固定を長い時間してきたので、固定用の輪ゴムをはずしても以前のように口を開けたり閉じたりできないため、食べることはおろか喋り方もおかしくなった。歯を食い縛って話す癖がついていて、自由に口が開けられるのにも関わらず、奥歯に物が挟まったかのような話し方になるのだ。実際のところ、奥歯と言わずすべての歯に物が挟まっているのだけれど…。退院したらまずこうした不自由な癖を元に戻していかなければならない。一ヶ月入院しただけでも、病気や怪我をすると今まで気にも止めなかったことが、とても不自由になってしまって、それが実は重要な動作や役割を担っていたんだということを認識させられる。朝の診察では先生から今後の治療方針の話があるだろう。僕はそれに加えて、骨折以外の治療をかかりつけ医で済ませたいこと、生命保険の書類手続きをお願いしたいこと、口の中の矯正器とアゴのプレートのことを聞いておきたい。あ、メモしておこう。メモするのは俺の得意技じゃぁないか!そうだ、そうだ。返却する歯科ユーティリティセット(ピンセットと鏡のついた棒)と一緒に、メモ用紙を持っていこう。よし、今書こう!(このあたり、リアルタイム)

1) 自転車、靴や鞄、ペットボトルなどの当時の装備品だけでなく、壊れた眼鏡や抜けた歯x2まで、救急隊の人が見つけて整理してくれた。誉田救急の皆様、ありがとうございました。
2) 電子カルテか電子看護のシステムが導入されているにも関わらず、認証やイベント処理が人間的で不自然である。ある意味これは危険なことでもある。情報伝達の過渡性に乏しく、医師から看護師そして患者にほぼトップダウンでしかオーダーが伝わっておらず、フィードバック機構がない。
3) 通常食をミンチ状にして咀嚼しやすくしたもの
4) でもそれは妻が嫌がるかな?嫌がるだろうな…。
5) 下顎固定のために埋め込んだチタン製のプレートを取り出す手術
6) 白粥は想像していたよりも美味しい。結構好きかも。おかずはミンチかペースト状になっていて、離乳食のようだった。
7) 一日分の薬すべてが一錠ずつパッケージされているので、逆に飲み難いのだ。しかも、薬が溶けやすいように割られているものもあるため、舌にダイレクトに薬の味が広がってしまう。
8) 一言で現せば「バカ男」
9) すでにPHPやH8マイコンで、プロトタイピングしたり実験的なインプリメンテーションをしたことがある。今やっているのはそのアイディアを更にブラッシュ・アップして、ポータビリティを向上させる作業である。
10) レーザー・ポインタを光学系で制御して文字や図形を表示する、マイコンに接続可能なベクターあるいはラスター投影システムのこと。
11) 水平・垂直方向に配置した3個のマイクによって、タッピング時の音波の伝達時間を計測することで得られる座標捕捉システムのこと。
12) バリカンの限界である3mmなのだ。その次は0mmになる。
13) 余剰な脂肪はある程度燃焼されるが、そのかわりに筋肉量も減少してしまう。
14) なぜなら一食がピッタリ400ccで、1cc=1Kcalだったから。
15) 下品で粗野でデリカシーがなく頭が悪いヤツ。それでいて世渡りが上手で口が立つ。意外と高学歴だったりするから始末が悪い。見た目なんて関係ないのだ。
16) 千葉中央メディカルセンター
17) , 18) , 19) 下総精神医療センター
 
telepathy/交通事故でアゴ骨折.txt · 最終更新: 2010/07/23 18:54 by daisukeh
 

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